睡恋─彩國演武─
言い終えると由良は千霧を座らせ、額を覆い隠す前髪を分けた。
真新しい傷口に優しく手を当てると、由良は目を閉じて意識を集中させた。
「ちょっと熱いかもしれませんけど、我慢して下さいね」
確かに千霧の額は、由良の掌から伝わる温かい力で熱を持っていた。
その熱は、けして気分を害すものではなく、むしろ心地いい。
しばらく手を置かれて居たが、ふと額が軽くなる。
「……治りましたよ」
額に手をやると、確かに傷がない。
「気を流したんです。人の治癒能力は、少し気を加えるだけで倍になりますから」
「凄いな。まさか治るなんて……」
感心しきって忘れていたが、千霧の心に、ふと疑問が湧いてきた。
「……そうだ!由良、ここは何処?村人は何で私達を──」
(あのおかしな白樹の空気は──…)
由良は、唇を噛んで、何かに堪えながらぽつぽつと語りだした。
「此処は白樹の王の城。あなた方は、『生け贄』にされるべく連れてこられたんです……」
「生け贄……?何の為の……」
「この国の王子が行方不明になって落胆した王が、王子を捜す為にとある神を崇めるようになってからです。白樹では三月に一度、神に贄を差し出し、祈りを捧げるようになりました」