睡恋─彩國演武─
部屋の外で静かに霧雨が降りだし、由良は遠くの空を見つめた。
「祈りに参加した者は何かに憑かれたようになり、一心に神を信仰しました。その最初の贄に選ばれたのが、俺の双子の弟の空良(そら)でした。俺には、どうすることも出来なくて──…」
由良は早くに両親を無くし、祖父と、弟と三人で暮らしていた。
貧しい家庭ではあったが、それなりに幸せだった。
だが祖父は病で他界し、生き延びるために兄弟で城に奉公に出たのだ。
空良には剣の腕も智もあったが、生まれつき体が弱いことに目をつけられ、彼は贄という名の犠牲に選ばれたのだ。
「……空良の為にも、これ以上の犠牲は出したくないんです」
由良はうつむいて、肩を震わせた。
「……由良は、弟を差し出したその神を信じているの?」
千霧の問いかけに、由良は大きく首を横に振った。
「この街の空気はおかしい。神なんかじゃない、それはきっと──異形」
「異形──!?」
千霧は頷いて、続ける。
「この街の者は皆、異形に操られている。元凶となる異形を倒せば、すべて元に戻るはず」
すると千霧は呉羽の寝ている寝台に近付き、気付け薬を口に含むと、彼の口に押し入れた。
結果、その行為は端から見れば口付けなのだが。
赤面する由良を気にすること無く、やってのける。
「う……」
呉羽が眉間にしわを寄せたかと思うと、うっすらと目を開ける。
「具合はどう?」
覗き込む主の顔に、呉羽が跳ね起きる。
「私は今まで何を……」
「私を庇って、村人に頭を撲られて気絶してたんだ。良かった、大事なくて」