睡恋─彩國演武─
*
「連れてれて参りました」
由良に案内されるまま、二人は広間に通された。
部屋の華美な造りに目が痛くなり、顔をしかめる。
「ようやった。下がれ、由良」
先程の春牧という女が、大きな口を歪にして笑っている。
「………御意」
由良が千霧の前から退くと、王が立ち上がった。
うつむいているので、顔を上げない限り千霧からは王は見えないが。
ただ、ツンとした女物の香水の香りに目眩がした。
ふと、目の前が陰ったかと思うと無理矢理に顎を持ち上げられる。
その瞬間、初めて見た王の表情に、体から血の気がひいていく。
顔立ち云々の問題ではない。
どちらかといえば、王の顔は整っている。
……それが実に奇妙に感じられるのは、どういうことか。
「おぉお、麗しい。白桃の肌に琥珀の瞳か。これまた稀なる……」
興奮した口調で、王は千霧の腕を撫で擦り、そのたび、千霧は嫌悪に眉を寄せた。
「名は?名は何と申す」
「……千霧でございます」
「千霧か。その声、鈴のようだなぁ」
王はひたすらに千霧を賛美している。
「贄にするのは勿体のうございませぬか?お気に入られたのならば妾にされては……」
意見したのは春牧。
王は待っていたとばかりに、千霧の腕を強く掴んだ。
だが千霧は。
「貴方の妾になるならば、喜んで神への贄になりましょう。……お離しくださいませ」
怖じけることなく、はっきりと拒絶した。
王は、千霧の強い眼差しに握り締めている手を緩めてしまう。
その隙に振り払うと、王と距離を置いた。
「無礼な!!」
春牧が叫ぶが、千霧は黙って睨み付けた。
「無礼はどちらか」
冷たく言い放つと、王を見据える。
「たとえ王であろうと、他者の肌に気安く触れる権利などありますまい。ましてや、己の崇める神への供物となる身になど、無礼極まりない」
千霧の隠しきれない威厳と気品に、春牧は返す言葉もなかったが、それでもなお、王はいやらしく笑っていた。