睡恋─彩國演武─





格子窓から、光が差す。

空が、白い。

燃え尽きた蝋燭が、受け皿の上に模様を描いている。


『どうする、今日』


月読がやけに浮かれた声で話し掛けてくる。


「何で嬉しそうなんだ……?」


『そなた、脩蛇を倒すつもりなんだろう?久しぶりに戦いが楽しめる』


「楽しめるかどうかは、使い手の力量次第でしょう」


呆れたのか、千霧は淡々と答えながら壁にもたれた。


「月魂の力は脩蛇よりも強いのか?」


『……それはそなたの技量次第』


月読の弾んだ声に、千霧は苦笑した。

暫くの間、夜明けをじっと観察していたが、鍵を回す音に扉に視線を移す。


『来た来た……』


視界の隅に衛兵の姿が映る。


「これからお前は禊(みそぎ)を行った後、神殿へ移り儀式をすることになる」


「……神殿?」


千霧の呟きにも気付かず、目の据わった衛兵は説明を続ける。


「禊は、春牧様と二人で執り行うのだ」


「春牧と……!?」


言うまでもなく牢の外に出され、引き摺られるようにして別室へ移動させられる。

石造りの広い部屋の中央に、妖しく輝きを放つ泉がある。

泉の前には、繻(うすぎぬ)を着ているだけの春牧が立っていた。

千霧は自分よりも大きな女を見上げてしまう。


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