睡恋─彩國演武─

「空良!」


名を呼んでも、もう応える声は無く。

光の方へと走り、転がるように神殿を出た。

脈打つ鼓動と、溢れる涙だけが止める術なく千霧を貫いている。


「………ぅ……」


由良の眉がぴくりと動いた瞬間、黒い瞳が色を取り戻す。

目覚めと同時に、由良が勢いよく跳ね起きる。


「……俺……空良は……?」


動転している由良の肩に、千霧がそっと手を置く。


「空良は……脩蛇と一緒に……」


千霧の表情から、大体のことは理解できた。

その事実を受け止めた瞳から、一滴の雫が零れ落ちる。


「目を閉じる間際、空良の声が聴こえたんです」



空良の言葉を一つ一つ繋ぎ合わせて、瞳を閉じる。



「由良……」



空良が、由良の顔を、泣きそうな瞳で見つめている。


「そ……ら……」


名前を呼ぶと、彼は小さく首を振って、身体を強く抱き締めてくる。


「僕は何時でも由良と一緒にいる。僕らは二人で一人なんだ。約束しよう。生まれ変わってもまた双子になるって……」


滅多に涙なんか流さないのに。

やけに印象的で、いつまでも焼き付いている。


「うん、約束する。約束するよ、空良」


小指を重ねる。
最後の指切りは、来世までの約束。


「ありがとう。……兄さん」


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