睡恋─彩國演武─


「あーぁ、その子、蜘蛛にやられたの?」

突然、頭上から聞こえた声に辺りを見回すと、木の上に少女が座って、呉羽達を見下ろしていた。


「ふふっ」


少女はにっこり微笑むと、高い木の枝から軽々と飛び降りた。

赤い着物から見えるほっそりした白い四肢。

金色の長い髪がふわりと宙を舞った。


「この辺り、珍しい毒蜘蛛が多いのよ。旅人は気を付けないと簡単にやられちゃうわ……」

少女は千霧の傷を覗き込むと、顔色を変えた。


「この傷……普通の薬じゃ治せないよ。そうね……星麟に行かなきゃ」

「星麟に?」

「アタシの店があるの。あそこなら薬も揃ってるし──」

呉羽と由良は顔を見合わせると、互いに頷いた。


「──お願いします」


これ以上、千霧の苦しそうな顔を見ていたくなかった。

だから、この少女を信用するしかない。

「でも、ここからじゃ遠いわね。何か、馬でもあれば……って……」


少女は何気なく呉羽の顔を見ると硬直し、指をさした。

「……白虎!?」

いきなり本当の名を呼ばれて驚いたのは、呉羽の方だった。


「あの、今なんと……」

「──朱雀よ。忘れちゃったの?……アンタも年ねぇ」

「……まさか、貴方が女性になってるなんて、驚きましたよ」

「そう?……今は、朱雀じゃなくてアイって名前なの。そっちの子は?」

アイは由良を指差し、目配せする。


「由良です。新しい玄武の」


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