睡恋─彩國演武─
「由良、薬はありますか?」
「はい。一応……」
由良は薬の入った包みを取り出すと、そこから指先に多めにすくい取り、ほんのりと赤い傷口に塗り込んだ。
「千霧様、どこか異変はありますか?」
「いや……大丈夫。歩けるし、心配ないよ」
千霧は笑顔で答えるが、その表情に呉羽は逆に不安を覚えた。
医学に詳しい由良も、早く邑へ行って休ませた方が良いと判断し、千霧の言う通り進むことにした。
千霧は弱音も吐かずに、いつもと同じように振る舞っていた。
──強がり。
自分でも、そう思う。
本当は、一歩踏み出すだけで辛い。
傷口から、痛みと熱が込み上げて、絡み合って、軋んでいる。
堪えようとすれば、息があがる。
もう、足が痺れて、思うように動いてくれない。
「千霧様!顔が真っ赤ですよ!?」
呉羽が異変に気付いた頃には、千霧は熱でぐったりとしていた。
(さっきの蜘蛛──やはり呪詛か)
「こんなになるまで……」
気付けなかった己を責めながら、呉羽は千霧の傷口を確認する。
白い足が真っ赤に腫れ上がり、中心から紫の模様が太ももまで伸びていた。
単なる毒虫の傷にしては異様すぎる。