睡恋─彩國演武─

〔弐〕月夜の逢瀬



〔弐〕月夜の逢瀬



──あっという間だった。
とにかく由良は呉羽の背中に必死で掴まり、呉羽も必死に空を駆け、アイを追った。

陽は、それほど面積の広い国ではない。

ただ、街道が整備されていないため人が使える道が少なく、人々は回り道をしながら目的地へ行かなければならないのだ。

それゆえ、地上でなければ国を渡ることなど容易かった。


「うぅ……」


呉羽の背から降りると、由良は真っ青になって震えていた。

「あーらら、高いところ、苦手だったみたいね」

「……アイ、由良をからかう前に手当てを」

「はいはい。じゃ、迷わないようにね。複雑な店だから」

そう言うと、アイは華奢な腕で軽々と千霧を持ち上げ、建物の奥へと入っていく。

案内されて行き着いた先は、色街のようで、アイが入って行ったのも同じ類の店だった。

赤くなったり青くなったりしている由良を連れ、呉羽も後を追った。
< 157 / 332 >

この作品をシェア

pagetop