睡恋─彩國演武─
「ただいまぁ〜。一晩予約取り消しね〜」
アイが声を掛けると、襖の奥から愛らしい少女が出てきた。
「あれ、姐さん、お客?」
「ううん、友達」
「そっか。ごゆっくりどうぞ」
甘い香が焚き染められ、極彩色の室内に、嗅覚のするどい呉羽は目眩を起こしかける。
「──ここは、男娼の廓。居るのは皆、男だよ。今のも」
アイは呟くと、瞳を伏せた。
「アタシはね、芸妓をしてるだけだけど──他は身体を売ってる。此処にはそうしなきゃならないほどの何かを抱えた奴らが集まってるのさ」
アイは、襖を開けると千霧を布団に寝かせた。
「二人とも、少しだけ静かにしててね」
アイは傷口に右手を当てると、左手を自分の胸へ当てた。
「火よ、水気から生じ、この者の魂と交われ」
左手を右手へ重ねると、その部分が赤く光り出す。
「──邪なる気を取り払わん」
アイが目を閉じ、そう唱えると、しだいに太ももまで広がっていた模様が退いていく。