睡恋─彩國演武─
*
その後も、呉羽は休まずに千霧の看病をしていた。
冷たい水で絞った布で、額の汗を拭いてやる。何度も何度もそれを繰り返した。
それでも千霧は目覚めることなく、乱れることのない呼吸で眠っている。
「あの蜘蛛は呪詛なのか……?」
「悪いけど、あの蜘蛛自体は呪詛なんかじゃないよ。──まぁ、強力な毒は持ってたけど」
「アイ、いつから居たんですか」
「ちょっと前。それより、アンタもう寝れば?龍は寝てれば勝手に元気になるけど、起きた時に隈(くま)ができたアンタの顔なんて見たら、びっくりするよ?」
主人想いも良いけど、と薄笑いを浮かべるアイに、呉羽も納得した。
「──オヤスミ、白虎。良い夢を」
夜の闇の中、まるでひとつの光のように、彼女の長い金の髪は揺れていた。
そしてアイは、千霧を見下ろすと、耳元で囁いた。
「──運命に縛られた、可哀想な子」