睡恋─彩國演武─
*
辺りが、明るい。
「お目覚めですか?」
目の前で嬉しそうに微笑んでいる呉羽に、千霧は違和感をおぼえた。
「──夢?」
胡弓を弾いていた彼を引き止めた時から、記憶の糸がプツリと途切れてしまっている。
「彼は誰だか判らない。判らないのが、当たり前……」
青年の言葉はどれも印象的で、千霧の胸に深く焼き付いていた。
夢とは思えないほど、鮮明に。
記憶が辿ろうとしていると、廊下の方から元気の良い足音が聞こえてきた。
襖が勢いよく開けられ、アイが飛び込んでくる。
「龍、目が覚めたのね!」
アイは嬉しそうに千霧に駆け寄ると、呉羽の隣に座った。
「ええと……」
反応に困っている千霧に気付いたのか、彼女は自身の胸に手を当てた。
「起きてる時は初めましてかな。──アタシはアイ。四聖の朱雀で、白虎とはずっと一緒だったの。ちなみに、貴方の傷を治したのも、アタシだよ」
微笑みながら自己紹介するアイに、千霧も自然と力が抜けていた。
「そうでしたか……色々とありがとうございます。あの、朱雀って……」
呉羽を見ると、彼は横に首を振った。
それに、アイが言葉を付け足す。