睡恋─彩國演武─

アイは長く赤い爪を噛みながら、不快そうに視線をそらす。

「転生中に思い出しちゃったんだ、全部。──そしたら、人間じゃなくなった。やっと掴んだ幸せも粉々だよ。アンタも知ってるだろ?転生中の掟」

「自ら過去を思い出せば、いかなる事情でも四聖に戻る……ですか」

「そうそう。先代は僕らにそう教えたよね。──でも、実際違うんだよ。本当は、人と四聖が混ざって中途半端な出来損ないになるのさ」


アイは自らが穢らわしい生き物だと言うように身震いした。

そして鋭い眼光を呉羽に向けると、取り乱したように声をあげる。

「アンタはいいなぁ……龍に飼い慣らされて、運命に従うのは楽だろう?」

「何を──」

「くく……あははははっ!」

呉羽が言い切る前に、アイは狂気的な笑い声を上げながら水面を覗き込んだ。


「僕って醜いね……」


水面に映る、絶望の色。


「運命なんか見えてなかったら、僕は幸せになれたのかなぁ……」


「アイ……?」


ひとつの波紋に、彼の顔が歪む。

引き絞るような声は、また別人のようだった。



< 181 / 332 >

この作品をシェア

pagetop