睡恋─彩國演武─
姿を現した青年は目を細めて、唇の端を持ち上げ、淫靡とも思えるような笑みを浮かべた。
悪戯っぽい眼差しの奥に、何か邪悪なものを感じとる。
「──こんにちは、第二皇子」
その声色に、胡弓の音色が蘇る。
「ご挨拶申し上げます。僕は白樹王子、藍」
唐突に紡ぎ出された言葉に、千霧、そして呉羽さえもが言葉を失った。
心の中でもう一度、名を唱えてみる。
「アイ……貴方は……!」
「だって言わなきゃ仕方ないだろ。本当のことだし、いずれバレるなら隠すだけムダ。面倒なだけだよ」
藍と名乗る青年は、呉羽に返事をするのが煩わしいのか、眉を寄せる。
「アイ……さんなの?藍王子が──」
「アイだった、だよ。本当の名前が藍なんだ」
千霧の様子が面白いと言うかのように、藍は呉羽の腕を引いた。
「──ちなみに同い年だよ。人間の歳だと下になるけどね」
「……まったく……」
あきれ返る呉羽の腕を、不満げに解放すると、藍は千霧に視線を移した。
「見つけられたのかい?」
その問いかけに、千霧は静かに頷いた。