睡恋─彩國演武─
「そう。──でも僕は、君がなんて答えるか、もう知ってる。だからその先は言わなくていいよ」
飽きた玩具に興味を無くした子供のように、藍は爪を噛みながらそっぽを向いた。
「知ってるって……」
「僕には運命を見る力がある。わかるんだよ、この先彩國がどうなるかも。勿論、君がここまで、僕を捜しに来ることも予想済み」
視線を横に流して、藍は白樹のある方角を眺めた。
「人間は脆いし、自分勝手な生き物だからね」
「──その“人間”が住む彩國を、貴方は守ってきたのでしょう?」
藍は眉をぴくりと動かすと、鋭く千霧を睨んだ。
「あぁそうさ。その彩國の為に、定まった運命の上を傀儡のように歩かされ、結果、僕は大切な人を殺してしまった……」
藍の紅い眼が怒気を孕む。
その眼光は千霧へと向けられていた。
危険を感知した呉羽が、千霧を守るように前へ出ると、大剣を構えた。
「藍!──もし千霧様を傷つけるようなことがあれば、私は貴方を斬ります」
「傷つけるなら、だって?ククッ……面白いこと言わないでよ」
彼の嘲笑に、呉羽は眉をひそめた。
「僕の言葉を鵜呑みにして、呪詛の正体に気付かなかったくせに。確かにあの蜘蛛自体は呪詛じゃなかったよ?……けどね、かかっていた呪詛は僕のものだ」
「どうして──」
失いかけていた足の痛みを思い出し、ざわり、と嫌な気配が全身を襲う。