睡恋─彩國演武─
足を踏み入れた瞬間、室内の空気が変わる。
皆の視線が、藍に集中した。
「あら──イイ男」
「天祢……その人は?」
娼年たちがざわめき、天祢に詰め寄る。
藍は想像通りの展開に呆れながらも、その間に割って入った。
「ちょっとちょっと。落ち着きなって。……よく見てよ」
一瞬の静寂が訪れる。
食い入るように藍の顔を眺めて、やっと娼年たちは納得し、驚いた。
「姐さん!?」
「……うん。その──もう“アイ”じゃないんだけどね」
少し俯いた。
柄にもなく、皆の反応を直視するのが怖いらしい。
「どうしたんですか?突然男前になっちゃって」
「そうよ。知らなくって損したじゃない」
「損したって……もっと他に反応ないの?怒るとかさ。女だって騙してたのに……」
廓仲間の予想外な反応に、藍は首を傾げた。
すると背の高い娼年の一人が、藍の髪をくしゃっと撫で、微笑む。
「怒ったりなんかしないわよ。知ってるでしょ?此処の妓(こ)たちは皆、いろんなモノを抱えてる。アンタも……アタシもね」
「──そっか、そうだね。ごめん。勝手で」
まっとうで幸せな時を歩んできた者は、ここには居ない。
傷つき、その傷を癒すため、あるいは自分への戒めとして、この廓へ集まる。