睡恋─彩國演武─
*
日が暮れても、千霧は帰って来なかった。
藍は盛大な溜め息と共に額に手を当てた。
「──ねぇ、思うんだけどさ。千霧はここには来ないよ」
「見えるんですか、何か」
「鮮明じゃないけど。なんとなく、感じる」
「そうですか……」
呉羽はうつむいたまま答えた。
由良は先ほどから黙って空を見上げている。
「千霧の目が赤くなるのってさ、龍の力が千霧の人間の心より強く作用してる時だよ」
「──あの時、千霧様には自我が無いように感じました。恐らく藍の考えが正しいでしょうね」
一度目は、朱陽の森で。
二度目は、藍と戦った時。
しかしそれらの龍の力の発揮は、千霧の感情による作用だった。
だが今回は違う。
何が引き金になったのか、まったくわからない。