睡恋─彩國演武─





日が暮れても、千霧は帰って来なかった。

藍は盛大な溜め息と共に額に手を当てた。


「──ねぇ、思うんだけどさ。千霧はここには来ないよ」


「見えるんですか、何か」


「鮮明じゃないけど。なんとなく、感じる」


「そうですか……」


呉羽はうつむいたまま答えた。

由良は先ほどから黙って空を見上げている。


「千霧の目が赤くなるのってさ、龍の力が千霧の人間の心より強く作用してる時だよ」


「──あの時、千霧様には自我が無いように感じました。恐らく藍の考えが正しいでしょうね」


一度目は、朱陽の森で。
二度目は、藍と戦った時。

しかしそれらの龍の力の発揮は、千霧の感情による作用だった。

だが今回は違う。

何が引き金になったのか、まったくわからない。


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