睡恋─彩國演武─
「千珠」
「──珀様。どうかなさいましたか?」
肩を叩かれて振り返ると、珀はにっこりと笑った。
「お前の剣の腕が知りたいんだが……手合わせ願えるか?」
「──はい。真剣で宜しいですね」
「ああ。怪我しないように気を付けろよ」
「承知しております」
千珠は立ち上がり、珀と共に稽古場へ向かった。
黒い曼珠沙華が庭に咲き誇って、むせかえる芳香に目眩がする。
「珀様、この曼珠沙華は一年中咲いているのですか?」
「ああ。あれは陰の気を吸って咲いているからな。あれが咲かなくなれば國が滅ぶ兆候になる」
「そう……ですか。だから陽には咲かないのですね」
「そうだな。逆にこちらには睡蓮は咲かないんだ。……オレはなかなか好きなんだが、残念だな」