睡恋─彩國演武─
その横顔は、ひどく寂しそうだった。
「──なぜ、陰と陽は対立しなければならないのでしょうか。互いに憎み合っている訳ではないのでしょう?」
先を歩いていた珀は、立ち止まると目を丸くして千珠を見た。
千珠も合わせて足を止める。
「お前、変わってるな」
「そうでしょうか」
「ああ。陰の皇子の前でそんなこと言うのはお前くらいだぞ」
「思ったことを申したまでです。気分を害されましたなら、どうぞお切り捨て下さい」
「物騒な奴。そんなことしないさ……今のは褒めたんだよ」
褒めた?と、千珠は首をかしげながら聞き返す。
すると、珀はうなずいた。
「皇子ってだけで、誰もオレには本音を言わない。蒐と……お前は特別だ」
頭を優しく撫でられ、千珠は思わず珀の手を掴んだ。
「私は」
紅玉のような瞳が、珀をまっすぐ捉える。
「珀様が皇子であろうとなかろうと、お護りします。貴方が私を私で居させてくれるのだから」