睡恋─彩國演武─





人影のない稽古場で、二人は剣を構えた。


「動きを止められたり、剣を放した方が負けだ」


「承知しました。──では、参ります!」


その声と同時に、千珠が斬り込んだ。

珀はそれを素早く避け、千珠の背後に回る。


「──ッく!」


急な攻撃を受け止めると、千珠の身体が後退した。

剣に伝わる力の差。


「ほら、実力を見せてみろ」


さらに込められる力に、千珠は抗えずどんどん後退していく。


(どうすれば……)


千珠は剣に力を入れたまま、しゃがみこんだ。

それから小柄な体躯を利用し、受け身をとりながら急に力を抜く。

すると、支えが無くなり珀がほんの一瞬だけ体勢を崩した。


「な……っ!?」


その隙を突いて、千珠は珀の喉元に刃先を向けた。


「一本」


「……」


身動きのとれない状態で、珀はどことなく嬉しげに「参った」と呟いた。

剣をおさめて、千珠は笑った。

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