睡恋─彩國演武─
「手加減などされては、一本とれても嬉しくありませんね。気付かないほど莫迦ではないので」
じっと千珠の声を聞いていた珀だったが、立ち上がると埃を払い、ニヤリと笑った。
「悪かったな。どうやらお前を見くびっていたようだ。武人とはあまりにかけ離れて見えたからな」
「いえ、慎重になるのは良いことです。皇子を護るには相応の武がなくては。……私は、珀様を護るに足る人間でしたか?」
見上げると、珀は無言で自分の腕輪を一つ外した。
珀の手首には沢山の腕輪が付いていたが、外した腕輪は両手首に対となるよう付けられたもの。
金でつくられ、中心に紅玉か翡翠がついている。
外したのは、紅玉の腕輪だった。
「千珠、腕を出せ」
千珠が右腕を差し出すと、珀は慣れた手つきでそれを取り付けた。
「お前を信頼する。これは陰の家宝の一つだ。──お前がオレのものだという証。お前に害をなす者は、陰の敵ということだ」