睡恋─彩國演武─


「なんならずっと此処に居ればいい」


突然の第三者の介入に一番驚いたのは千珠だった。


「は、珀様!?」

「悪いな、勝手に入って」

「いえ……それは構いませんが……」


合図もせずに他人の部屋へ侵入したのだから、常人なら咎められても仕方のない状況だ。

しかし、珀のすることは全く無礼だ非常識だなどとは思えず、ついそれが当たり前のような対応をしてしまう。


「なぜ此処へ?」

「いや、さっきの……ああ、そう、お前だ。名前は?」


千珠の影に隠れていた少年を見つけると、珀はしゃがんで目線を合わせた。

普通、皇族とは気位の高いもので、庶民の為に自らの目線を合わせるなどけしてしないものだ。

でも珀はそれを当たり前にやってのける。そんな彼の器の広さに、千珠は強く惹かれていた。


「き……癸火(きほ)」


「癸火か。オレは珀だ。……お前、行く当てはあるのか?」

「ないよ。母さんは異形に殺されて……父親は誰だかわからないし」

「そうか。じゃあ、選択権は無しだ。──ひとつ部屋をやるから、此処にいろ」

「え……っ!?」


< 307 / 332 >

この作品をシェア

pagetop