睡恋─彩國演武─
千珠の怒声を聞いてなお、蒐は冷静な表情を崩さなかったが、すぐに顔を背けると消えるようにその場を去った。
「すまないな、彼も根は優しいんだ。私も初めてここに来たとき記憶が無くて……蒐に拾われたんだ。彼が助けてくれなかったら、今の私はいない」
「千珠さまを……?」
癸火は目を丸くして聞いていたが、すぐに頷いて笑った。
「千珠さま、オイラ、蒐さまを怖いとは思う。でも、嫌な人とは思わないよ」
「ありがとう、癸火」
癸火は良い子だ。
だからこそ、守りたいと思う。
傷つけたくないと……。