睡恋─彩國演武─
「……千霧……」
外が騒がしいことに気付き、庭に戻った紫劉だったが、千霧の身体の傷、そして右腕を醜く変化させた最愛の息子、紫蓮の姿に言葉を失った。
「クスクスッ……」
嘲笑うかのように、紫蓮は皇である紫劉にわざと見せつけるように右腕をくねらせる。
明らかな動揺の表情を浮かべる紫劉の額には、いつの間にか脂汗がにじんでいた。
「自分の息子でしょう?異形になっただけでそんなに怖い?」
恐ろしいほど歪んだ笑み。
紫蓮が一歩、足を踏み出したその時、水の壁のようなものが彼を取り囲んだ。
「なに……ッ!」
身動きがとれなくなった紫蓮は、心当たりでもあるかのように視線を泳がした。
「蛟!!おのれェ……!」
それまでの穏やかな口調ではなく、怒りにふるえる獣のような声。
鋭い視線で捉えたのは、千霧の姿だった。
「……」
千霧は無表情で、指先だけを紫蓮へと向け、ピンと琴の弦を弾くような動作をした。
その瞬間に、水の壁が四方から紫蓮を圧迫した。
紫蓮は、今まさに水中にいるのと同じ状態となった。
もはや、彼の叫びは全て水泡となって消えるだけ。
なおも、千霧は無言で紫蓮を見つめていた。