睡恋─彩國演武─
だんだんと苦しくなる息に耐えかね、顔を歪める紫蓮。
「お止めください千霧様!このままでは紫蓮様の身体まで……!」
呉羽の必死の制止も耳には届かず、千霧は攻撃を止めようとしない。
(千霧様……どうされたというんだ……?)
まるで違う、紅く光る瞳。
千霧は澄んだ琥珀のような瞳をしているはず。
それにこの禍々しい空気。
「千霧さ……」
「千霧!」
呉羽の言葉は、紫劉によって遮られる。
「……いや、游蘭(ゆうらん)と言うべきか?」
游蘭。
その名前に、千霧は小さく反応した。
紫劉はそのまま千霧に近づいていく。
いつの間にか、紫蓮を囲っていた水の壁は消え、気を失った彼は地面に倒れていた。
召し使い達がすぐに駆けつけ、紫蓮を宮殿の中へと運ぶ。
しばらくの間、千霧は黙って紫劉を見ていた。
まるで珍しいものでも観察するように。
「……皇。お久しゅうございます……」
千霧が首を傾げてにっこりと微笑んだ。
初めて見せた、女としてだけの仕草。
それを見ていた他の召し使いや大臣、そして兵士達は口々にこう言った。
「妃殿下……」
貴妃。その名が指すのは、そう、千霧の母親だ。