睡恋─彩國演武─
*
「……貴方は、誰?」
千霧は少年に問いかける。
けれど、その質問に対しての答えは無く。
少年は、くるりと千霧に背を向けた。
『北へ、会いに来て──…』
段々と、少年の背が小さくなって。
「待って!」
呼び止めようとしても、その声は彼には届いていなかった。
「待って──…」
はっと、我にかえる。
天井に向かって伸ばされた左手。
夢を見ていたのだろうか。
窓越しに闇が迫る。
すでに夕刻だ。
「北へ──行けと?」
千霧は少年の言葉に、言い様のない不思議な感覚をおぼえていた。
彼は一体、何者なのか。
助けを乞うような瞳、口調。
それに、初めて呉羽と出会った時感じた、あの懐かしさにも似た空気。
──…ドクン
僅かに、心臓が脈打った。