睡恋─彩國演武─





「……貴方は、誰?」

千霧は少年に問いかける。

けれど、その質問に対しての答えは無く。

少年は、くるりと千霧に背を向けた。


『北へ、会いに来て──…』


段々と、少年の背が小さくなって。


「待って!」


呼び止めようとしても、その声は彼には届いていなかった。


「待って──…」


はっと、我にかえる。

天井に向かって伸ばされた左手。


夢を見ていたのだろうか。
窓越しに闇が迫る。
すでに夕刻だ。


「北へ──行けと?」


千霧は少年の言葉に、言い様のない不思議な感覚をおぼえていた。

彼は一体、何者なのか。

助けを乞うような瞳、口調。
それに、初めて呉羽と出会った時感じた、あの懐かしさにも似た空気。



──…ドクン



僅かに、心臓が脈打った。






< 72 / 332 >

この作品をシェア

pagetop