睡恋─彩國演武─
「でも、どうして突然?気になることでもあったんですか?」
「……妙な夢を見たんだ」
「夢?」
「顔を隠した少年が一人、暗闇に立っていて、『北へ来い』と……」
髪を結い上げながら淡々と語る。
千霧が振り向くのと、呉羽が口を開くのは、どちらが早かったのか。
「───ならば行きますか?白樹へ」
呉羽もその夢に何かを感じ取ったのか、二人は目を見合わせる。
「───行こう」
強い意志をを言葉にし、千霧は少しだけ微笑んだ。
直後、部屋の扉を叩く音。
すぐさま駆け寄って、問いかける。
「誰です?」
警戒心が人一倍強い千霧。
沙羅と呉羽、それから血の繋がりを持つ僅かな人物しか、部屋へ通した事はない。
「……僕だよ。紫蓮」
「兄様……っ!」
意外な人物の訪問に驚きつつ、慌てて扉を開けると頭を下げる。
「……兄様とは知らず、すみません」
紫蓮は苦笑すると、千霧の頭を撫でた。
「顔をあげてよ。なんとも思ってないから」
「え……」
顔を上げると、紫蓮はにっこりと笑った。