睡恋─彩國演武─

「もう僕に頭なんて下げないで」


瞳の奥に沈んで見えた哀しげな色に不安を抱き、千霧は彼を自室へと招き入れた。


「呉羽、少し席をはずし……あれ?」


先程まで一緒に居たはずの彼の姿は消えていた。

首を傾げている千霧に、紫蓮が声をかける。


「どうかしたのかい?」


「いえ、なんでも──お茶、淹れますね」


取り繕い、彼に背を向けた瞬間、後ろから抱き寄せられた。

突然のことに驚き、気付いたときには彼の胸へと倒れ込んでいた。


「──兄様っ!?」


次第に身体を抱き締めている腕に力がこもっていく。


「時間がないから、よく聞いて」


力とは反対に、普段の兄からは想像できないほど弱々しい声。


「僕は龍の力で生まれた“異形”なんだ。だから、以前からこの身体は異形に蝕まれつつある。……いつかは、完全な異形になるかもしれない」

「──そ、んな……!」

「異形になれば、自我はなくなる。だから、僕はあの時何も出来ず、ただ黙って君が傷つくのを見ていたんだ。……ごめんね」

「あれは……あれは兄様のせいではありません!」

自分を責める紫蓮に、千霧は必死に訴えた。

一本の糸を手繰り寄せるように、必死に。

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