睡恋─彩國演武─
指先が触れるか触れないかの距離に近づくと、それまで黙って見ていた呉羽が声を上げた。
「お待ちください」
反射的に千霧が手を止めると、それに呉羽は自らの手を重ねる。
「呉羽殿、如何された?」
「月魂がなぜ、持ち主の生気を吸っていたのか……わかりました」
握られた手に、千霧が息を呑む。
「この神剣は、持ち主を選ぶようですね……。ですが、皇の仰るとおり千霧様になら扱える」
言い終えると同時に、呉羽は重ねた手で月魂を掴んだ。
僅かな衝撃が、二人を包みこむ。
「千霧様、月魂の聲(こえ)を、お聞きください」
頷くと、千霧は目を閉じた。
真っ白な世界に、一人佇んでいる感覚。
そこには呉羽も沙羅も、紫蓮もいない。
あるのはただ、長く細い一本の道だけで、遠くには小さな光が見える。
千霧はひたすら、光の方へとその道を歩いた。
どこまでも、どこまでも終わりがない。
……ふと、光が見えなくなる。
暗闇、無の世界。
千霧の影は、闇の中に吸い込まれた。