睡恋─彩國演武─
「いつも沙羅の隣にいるから」
千霧の手が、沙羅の柔らかい髪を撫でる。
遠いと思ったのに、このぬくもり、優しい手、本当は全部、近くにあったんだ。
「約束、ですよ……?」
差し出された白い指に、指を絡めて。
「うん。……約束」
彼女はまるで幼い子供のような笑顔を見せた。
そして、千霧の肩越しに見えた姿に身を引くと、一礼する。
千霧も視線の先へと振り返った。
「旅の支度は整った?」
「ええ。……兄様、その箱は?」
紫蓮の手には、大きな青い箱があった。
「ああ、これは、父上から千霧に」
差し出され、箱の鍵を取り外すとそこにあったのは一本の剣。
朱色の柄に、中央に翡翠、両脇に小さな紅玉の埋められ、さらに金の見事な装飾を施された細く美しい剣だ。
小振りで、華奢な千霧でも軽々と扱える、まるで剣舞に使われるような剣。
「月魂(つきしろ)。陽に伝わる皇族の神剣だよ」
「これを私に……?でも皇の宝なのでしょう?」
「月魂は神の剣。だけど普通の人間なら持っただけで生気を吸われる妖剣でもある。……でも、君になら使えるはずだからって」
千霧は剣を見つめながら繰り返した。
「月魂、神の剣……」
妖しく光る剣に向かい、ゆっくりと手を伸ばす。