空のギター
 ──オーディションを終えた頼星は、自分の実力を出しきった爽快感に溢れていた。自動ドアを通って外に出た彼の目には、ビルの壁にもたれている雪那の姿が映る。



「……お待たせ。先帰ってて良かったのに。」

「だって、頼星一人じゃ寂しいと思って。ねぇ、何弾いたの?」

「某三人組バンドの曲。ヒントはー……春を待ってる曲かな。」

「某って……しかも、そんな曲は世の中に数え切れないくらいあるんだけど。」



 雪那に言われても、頼星はニヤリと笑うだけだ。雪那は溜め息をつくと思いきや、「……なーんてね」と言って頼星の耳元に口を寄せる。そして、小声である曲名を告げた。



「……凄ぇ。何で分かった?」

「勘だよ勘!幼馴染みを甘く見ない方が良いよー?」



 雪那は悪戯っぽく笑う。頼星はいつもの仏頂面を崩し、雪那につられて小さく笑った。



「……よーし。お前が弾いた曲も当ててやるよ。」

「ほんとに?“俺”のは難しいぞー?」

「おいおい、早くも受かった気になってんじゃん。」



 自分の前でも一人称を変えたままの雪那を見て、頼星はクスリと笑う。その目からは、確かな自信が読み取れた。
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