空のギター
「あんたにそんなこと言われる筋合いはないんだよ。誰と関わるのかは“俺”が決めるんだ。
……中学生からかうだけなら、やめて下さいね?」



 凍り付いたように、誰も動けない。頼星は少し慣れているものの、その迫力に驚いている。

 その時「131番の方、入って下さーい!」という声がして、スタッフの女性が雪那を呼びにきた。雪那は「あ、はい!今行きます!!」と返事する。その声は元通りの、女の子にしては少し低めの声に戻っていた。と言っても、地声より低めの声を意識して出しているのだが。



「じゃあ頼星、行ってくるね!」

「おう。絶対受かれよ!」



 頼星が片方の拳を高く上げれば、雪那も同じように拳を上げる。

 ──コツンッと音を立て、拳がぶつかった。



「分かんないけど頑張るよ。じゃあ後でね!」



 雪那はそう言うとギターケースを背負い直し、審査室へと歩いて行った。その姿は、後ろから見ても凛としていた。



「雪那……頑張れよ。」



 後ろ姿に向かって、頼星はそっと呟いた。自分が呼ばれるまでの数十分間、彼はとても清々しい気分だった。先程の、啖呵(たんか)を切った雪那を思い出して。
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