空のギター
「俺は175になりました。Raiseiに抜かれそうで怖いです……」



 Kazamiが苦笑しながら言えば、観客も乾いた残念そうな笑いを見せる。Raiseiが「あ、ほんとだ。俺、今172だもん」と答えれば、何処からか「Kazami君ドンマーイ!」という声が聞こえてきた。Kazamiは「ありがと……」と力なく微笑んで、成長期のRaiseiに「お前これ以上伸びるな!」という無茶な注文をつける。当然の如くRaiseiは「嫌だ」と呟き、意図せず会場の笑いを拐っていった。するとその時、突然Setsunaが叫んだ。



「……ちょっと待って!Raisei、いつの間に伸びた?」



 Setsunaは驚きながらもショックを受けているらしい。そういえば、最近彼を見上げる角度が変わったような気がしていたのだ。対するRaiseiは「知らない。そういうお前は何センチだよ?」と、いつも通り飄々としている。Raiseiに聞かれ、Setsunaは躊躇いがちに口を開いた。



「えーっと……162、かな。」

「うわ、中1の時の俺の身長じゃん。」



 馬鹿にしたような彼の口調に、Setsunaの表情が一瞬能面のようになる。直後の「何かRaiseiムカつくー!!」というSetsunaの叫び声で、会場は再び笑いに包まれた。
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