私の王様
「なんでもない。それで、藤子は最近思いつめてたのね。まさか、東大寺さんとのお見合いを自分から望むなんて思わなかったわ。‥‥がんばったね」

優しく言って微笑む美香に、涙がこみ上げてくる。

バカなことを、と否定することもせず、私の決意を受け止めてくれることが嬉しかった。
姉と和泉くんのことも、私の気持ちも全部わかっているのに。

でも。


「東大寺斎は、惚れさせろって言うの」


俯いて呟く。

無駄なのに。
きっとまた、苦しくなるだけなのに。


「人の気持ちは変わるよ、藤子」


泣きそうな顔の私を見て、美香の目が真剣なものになって私を見つめる。


「変わらない想いもある。けど、変わることもあるのよ。高瀬さんも‥‥藤子も。それは決して悪いことではないと、私は思う」


和泉くんが、私を好きになってくれるかもしれないということ?

‥‥違う気が、する

私がほうけている間に、美香は言うだけ言うとさっさと食事を再開させていた。

今さら、食欲は沸かなくて、三口ほどしか食べられていなかった私のオムライスをそれ以上減らす気にもなれない。

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