私の王様
駐車場にある黒い高級車の助手席に押し込まれ、すぐに彼も運転席に乗り込んでくる。
「どこ、行くの?」
「さぁ」
「は!?」
「‥‥藤子は、どこがいい?」
え?
「藤子が行きたい所に連れてってやるよ」
不意に優しく微笑まれて、ドキッとする。
今までにない、優しい声にも。
「じゃあ、家」
「却下」
‥早。
とたんに、不機嫌な顔になる。
「それじゃ、意味ないだろ。そんなに、帰りたいわけ?」
つまり、迎えに来た、ってどっかでかけるってこと?
‥‥そう言えばいいのに。
「‥じゃあ、水族館行きたい」
「水族館?」
「うん。魚見たい」
ダメ?と伺うように首を傾げる。
「、っ‥わかった」
ぷいっと顔を前に戻して走り出す。
一瞬息を呑んだようなのはなんでだろう?
‥‥左手で顔隠してるし。
「ねぇ、怒ったの?」
しゅんと俯いて、ごめんなさい、と呟くと、
「いや、ちがっ」
慌てて言う東大寺の顔がこちらを向く。
心なしか、赤い。