私の王様
「だいじょうぶ?」
「は?」
「顔、赤いよ?」
「っ!なんでもねぇよ」

また怒ったように言ったので、不安になったけど、

「水族館、好きなのか?」

って話しかけてきたからほっとした。

「うん。‥ていうか、海が好き」
「へぇ、俺も。‥あ、じゃあ、海行くか?」
「え!?行きたい!」

目を輝かせて思わず勢いよく言うと、

「じゃあ行くか」

「あ‥‥やっぱりいい」

ウィンカーを出して方向を変えようとしていた彼にしゅんとして言う。

「何で?」

車を端に止めて私を見る。
急に言葉を翻した私に怒ることもなく、ただ不思議そうにしている。

「だって‥ここから海、遠いでしょう?東大寺斎、忙しいのに帰りが遅くなっちゃう」
俯いてもごもごと言う。

そう、よく考えたら、この人は東大寺家の跡取りなどだ。忙しいに違いないのに、私なんかが彼の時間を奪っていいはずがない。

しかも、海に行きたい、なんて私のわがままで。

「ばかじゃねぇの?」

呆れたように私を見下ろす瞳に思わずむっとする。


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