私の王様
「‥‥どうして、俺と見合いさせたくなかったんだ?」

「‥‥絵里ちゃんが、好きだから」

「お前、そんなに俺が嫌いか?」

「ちがっ」

「じゃあ、何だよ」


今までより少し低い声にびくりとする。決して怒鳴っているのではないのに、彼の怒りが伝わってくるような、声。


「他に、あるだろ?一番の、理由が」


ひやりとした。

彼は、知っているのかもしれない。

何も言えないでいる私に、彼の声が届く。


「‥お前の大好きな高瀬和泉(タカセ イズミ)は、元気か?」


いつもなら、腹が立つに違いない彼の台詞。

ああ、やっぱりこの人は全部知ってるんだ。


絵里ちゃんにお見合いなんてさせたくなかった。


ずっと想い続けた好きな人と同じくらい、大切な姉だから。


「バカだろ、お前」


ぐしゃり、と私の頭を乱暴に撫でる。

うるさい、といつものように言ってやりたいのに、言葉が出ないのは、彼の手がやさしかったせいかもしれない。


涙が零れそうになるのをこらえて、バカじゃない、とだけ呟いた。

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