私の王様

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家に帰り着いて部屋に入るなり、バサリと着物を脱ぎ捨てて、ベッドに寝転がる。

いつもなら着物は好きだが、今日ばかりは肩が凝って仕方ない。

何も考えずにただ眠ってしまいたいのに、彼の言葉がぐるぐると頭を巡っている。


賭けをしよう、と彼は言った。


「お前もわかってるだろ?この見合いは既に婚約が決まったようなもんだ。でも、お前が‥‥望んでるわけじゃ、ない。だから、チャンスをやるよ。この二ヶ月で、お前の好きな男を惚れさせろ。そうしたら、お前の勝ち。俺の方から穏便に婚約が破棄になるようにしてやるよ。もちろん、親父たちの会社の関係にヒビも入らせないように」


よく、わからなかった。
なんのために彼がこんなことを言っているのか。


だって、穏便に婚約破棄と言ったって、両家の間に何のわだかまりも残さないことは難しい。

彼の方からそんなリスクを犯すメリットはあるのだろうか。

驚きと混乱で、私は何も言うことができない。


「二ヶ月、だ。その間に、‥‥俺は、お前を俺に惚れさせる。」
「‥‥はい?」

え。
今、なんて‥‥


「つまり、お前が俺に惚れたら俺の勝ち。婚約は有効。お前がどんなに嫌がろうが、俺と結婚してもらう。」


まっすぐにこちらを見つめる瞳は真剣そのもので。

いつも私をからかっているときのような雰囲気はどこにもない。

どうやら、冗談じゃないらしい。

って、いやいや。

「本気!?」
「当たり前だろ」

思わず大声で言った私に冷静な声が届く。


この人、賭けなんかで結婚相手決めちゃう気?


私が呆然として何も言えないでいるうちに、じゃあそういうことで、と言って部屋へと戻る彼の背中が小さくなって、私は慌てて後を追いかけた。



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