私の王様
***********
家に帰り着いて部屋に入るなり、バサリと着物を脱ぎ捨てて、ベッドに寝転がる。
いつもなら着物は好きだが、今日ばかりは肩が凝って仕方ない。
何も考えずにただ眠ってしまいたいのに、彼の言葉がぐるぐると頭を巡っている。
賭けをしよう、と彼は言った。
「お前もわかってるだろ?この見合いは既に婚約が決まったようなもんだ。でも、お前が‥‥望んでるわけじゃ、ない。だから、チャンスをやるよ。この二ヶ月で、お前の好きな男を惚れさせろ。そうしたら、お前の勝ち。俺の方から穏便に婚約が破棄になるようにしてやるよ。もちろん、親父たちの会社の関係にヒビも入らせないように」
よく、わからなかった。
なんのために彼がこんなことを言っているのか。
だって、穏便に婚約破棄と言ったって、両家の間に何のわだかまりも残さないことは難しい。
彼の方からそんなリスクを犯すメリットはあるのだろうか。
驚きと混乱で、私は何も言うことができない。
「二ヶ月、だ。その間に、‥‥俺は、お前を俺に惚れさせる。」
「‥‥はい?」
え。
今、なんて‥‥
「つまり、お前が俺に惚れたら俺の勝ち。婚約は有効。お前がどんなに嫌がろうが、俺と結婚してもらう。」
まっすぐにこちらを見つめる瞳は真剣そのもので。
いつも私をからかっているときのような雰囲気はどこにもない。
どうやら、冗談じゃないらしい。
って、いやいや。
「本気!?」
「当たり前だろ」
思わず大声で言った私に冷静な声が届く。
この人、賭けなんかで結婚相手決めちゃう気?
私が呆然として何も言えないでいるうちに、じゃあそういうことで、と言って部屋へと戻る彼の背中が小さくなって、私は慌てて後を追いかけた。