腹黒王子の取扱説明書
「身内にだって作り笑いする奴が、どうして彼女の前だと冷たいのかね?」

「さあね」

俺がその答えを知りたいくらいだ。

自分で自分がよくわからない。

「下らない役員会議なんかサボってよく考えた方がいいんじゃねえか?」

「余計なお世話だよ。お前も出席するんだよ。重役の有り難い話にようく耳を傾けるんだね」

俺は自分の中の戸惑いを誤魔化すように、須崎に向かって微笑む。

「それってただのじじいの無駄話じゃねえか」

須崎ががっくりと項垂れる。

俺は椅子から立ち上がり、須崎を連れて会議室に向かった。

会議は須崎が言うように無駄話ばかりで、俺は会議資料に目を通す振りをしながらずっと麗奈の事を考える。

重役連中の声は耳に入らない。

彼女の見せた綺麗な涙が忘れられなかった。
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