腹黒王子の取扱説明書
「ああ、めんどくさ。こっちに来るわ」

杏子がチッと舌打ちする。

めんどくさって一応兄だし、うちの会社の役員でしょう?

専務が爽やかな笑顔を浮かべながら、こっちに歩いてくる。

「外にでも食べに行けばいいのに」

杏子が専務に向かって作り笑いを浮かべながら、ボソッと呟く。

これは苦手って言うより、嫌いなんじゃない?

仮面夫婦ならぬ仮面兄妹?

あっ、でも、杏子が一方的過ぎるから違うか。

確かに完璧すぎるのって逆に引くけど……。

「隣、良いかな?」

専務が杏子にではなく、私に女を瞬殺するような笑顔で聞いてくる。

この笑顔を見て断れる人っているだろうか?

私は専務の顔に見惚れながら、コクリと頷く。声は出てこなかった。
< 5 / 309 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop