ブラッディ ショコラ
エリカはぐいぐいと私の腕を引っ張った。
買ったばかりのセーターが伸びそうだ。
勢いよくドアを開け、エリカは私を保健室へ押し込む。
あまりに勢いよく開いたドアは、廊下に大きな音を響き渡らせた。保健室の先生がいたら、絶対に怒られている。でも、幸運なことにそこに先生の姿はなかった。
自分でも強くやりすぎたと思ったのか、エリカは、今度はものすごく静かにドアを閉めた。そして私に向けて照れ笑いを浮かべる。
その笑顔は、並みの男子なら一瞬で惚れてしまいそうなかわいさだ。女の私でもその笑顔に免じて、全てを許してあげたくなる。
いや、でも今日は聞かなきゃならないことがいくつかある。
私はふと我に返って、今一番の疑問をエリカにぶつけた。
「え、何? なんで保健室に連れて来たの?」
一度冷静になったつもりだったけど、やっぱり状況が把握できずに、混乱している私。若干声が裏返った。それとは対照的に、エリカは不思議な笑みを浮かべている。
「まぁ、しいて言えばサトミとゆっくりお話したかったから?」
なぜか最後にハテナをつけてエリカが言う。なんだか上機嫌な様子だ。
「話ってなに?」
エリカの意図が掴めずに困る私。
「ん~、恋バナかなぁ。」
なんだそんなことか。何か大変なことでも起こったのかと思った。
予想外の答えに、私は気が抜けてしまった。
わざわざホームルーム抜け出してまで言う話か?とも思ったけど、よっぽど良いことでもあったのだろう。
「なんか良いことでもあったの?」
私はエリカの恋バナに付き合うことにした。
「うん、まぁね。」
嬉しそうに答えるエリカ。
こんなにかわいい子に好かれた男子はどんなに幸せなのだろう。
「誰?どんなこと?」
私は単刀直入に聞いた。
「ん~、先輩。」
「え、年上?」
意外だった。私はてっきり、エリカは同じクラスのショウタのことが好きなのかと思っていた。だって、エリカの態度がバレバレだったから。チカやモエとも、つい先日、そんな話をしていて、応援してあげよう!なんて言っていた。
「うん、ちょっといいなぁっと思って。」
エリカは、遠くのものでも見るかのような目をして言った。
「そっかぁ。」
意外な答えに私は、曖昧な相づちを打つしなかった。聞きたいことはいろいろあったけど、沢山ありすぎて、どれから言っていいかわからなかった。
エリカもそれ以上は何も言わなかった。
私の、どんなこと?という問いに対する返答はなかった。
ただずっと不思議な笑みを浮かべ、窓の外を見つめていた。
「…ねぇ、そういえばさぁ。」
私は朝のチカとモエのことを聞こうと思い、口を開いた。
「チカとモエのこと何か知ってる?」
エリカは、何のこと?と言うような顔でこっちを向いた。
私はエリカに、朝あったことの一部始終を話した。