【完】山崎さんちのすすむくん
すっかり夜の闇に覆われた町を歩き、辿り着いた一軒の建物。
鍼、と書かれた板が打ってある門の前で一人佇みそれを見上げる。
「はぁ」
何で久々に生家に顔出すんで溜め息つかなならんねん。どんな家や。
……こんな家や……。
もう一度息を吐き出し、潜り戸から中へと入ると中はしんと静まり返っていた。
もう寝とるか?
そろそろと土間に続く戸を開ける。
勿論手には懐刀。
人一人分にも満たない、僅かに開いた戸口から差し込む月明かりが仄かに踏み固められた中の土を照らした。
……なんも……ないんか?
前は夜戸を開けただけで……。
そんなことを考えながら顔だけを僅かに中へ滑り込ませた刹那、
──ヒュン
何かが空気を裂いた。
っ、時間差か!
ガンッ
頭上から勢いよく降ってきた木の棒を鞘に納めたままの懐刀で受け止める。
続けざまに脚を狙って飛んできた苦無を後ろへ飛び退き避けると、そのまま屋根から降りてきた藍色の影が振り下ろした木刀を受け止め叫んだ。
「阿呆! 俺や俺っ!」
「儂は俺なんちゅう奴は知らん」
く! 屁理屈オヤジめ!
「烝やすす」
「親を阿呆呼ばわりすな、こん糞息子!」
「むーーっ!?」
未だガチガチと木刀と懐刀の攻防が繰り広げられていたところに、一瞬月明かりを映したモノ。
一寸六分の鍼。父の仕事道具。
すぼめた口から飛ばされたそれは見事俺の眉間にぷっすりと突き刺さった。
いっ、……たくないけどぉー!
「何すんじゃいおとんっ!!」
怖かった怖かった怖かったぁ! 目の回りはほんま怖いってぇぇっ!!
「印堂や、そこは気力の源。直感、洞察、精神を高める場所や。ついでに眼の疲れにも効く。……よう帰ったな、烝」