【完】山崎さんちのすすむくん
町での諸士調役の任務が増えて数日が経つが、やはりこれといって動きは見られない。
まぁもしあの一件が長州の連中の仕業だったとすれば、暫くは益々大人しくなる筈で。
どちらとも判断がつかないまま、振り出しに戻る形でまた数日が過ぎていった。
「く……山崎っ……お、俺は死ぬのか……?」
小刻みに震える手がすがるように俺に差し出される。
「死にません。春とはいえ朝晩はまだまだ冷えるというのに褌一丁で寝ているから腹が冷えただけです」
ただの下り腹や。ピーなだけや。
てか寧ろよう熱も出さんで済んだなぁて感心するし。
やっぱりあれか?お前さん阿呆やろ?
……酔うてこないなとこで寝とる奴は間違いなく阿呆やな……。
まだ誰もいない早朝の稽古場。
最年少でいつも真面目な斎藤一助勤が一人稽古をしにきたところ、中央で苦しんでいたこれを発見したらしい。
それで医学の知識もある俺が呼ばれた、という訳だ。
溜め息をつきながら、大袈裟に悶え苦しむ原田くんの腹に温石(熱した石を布等でくるんだ懐炉のようなもの)をくくりつけてやる。
ちなみになんとか長着だけは着せた。
「さぁ、今日は朝稽古は休んで良いとのことですからもう部屋で休んでいてください。それとも厠にでも向かいますか?」
「ど、どっちも無理ぃ……」
て言われても。ほならどーすんねん。
この際稽古の間隅っこに転がしとくか?
や、でも此処で漏らされたりなんかしたら絶対嫌やし……。
「厠に連れて行きましょう。私も手伝います」
眉を寄せて考え込んでいれば、それまで後ろで見ていた斎藤くんが原田くんの肩を支えて起き上がらせた。
慌てて俺も反対の肩を支える。
「すみません、有り難う御座います」
「いえ、このまま居座られては稽古の邪魔なので」
ズバッと言いよるな。
原田くん目ぇうるうるやで。
……まぁその通りやから俺も否定はせんけど。