【完】山崎さんちのすすむくん
「俺ぁ仇討ちが嫌いでな」
僅かに顎を上げ、男は何やら偉そうに話し出す。
「んなもんよっぽど暇な奴かただの馬鹿がやるもんだ。……おめぇみたいな、よ」
ふんと鼻で笑い、不敵に口角を上げるその男に、無意識にもこめかみが反応する。
「どうせあいつぁ斬首だ、おめぇが手を汚す意味はねぇ。無駄なんだよ」
「自分に何がわかんねん! 俺はこの手であれを殺さなあかんねや!」
そうせな琴尾は浮かばれんやろ……!
あんな男の慰みもんにされて、挙げ句命まで奪われて。
死んだらええんと違うんや……許せん……許せんねや……っ!
あいつの無念は俺が必ず晴らす。
それで首斬られんねやったら本望や……どうせ……一人残ったってしゃあないねんから……。
本来ならあの下衆に向けるべき殺気を目の前の男にぶつけ、掌に爪を食い込ませていれば、そいつは呆れたように嘆息して首の後ろを掻いた。
「……ああ、わかんねぇよ。つぅか、やっぱりおめぇは馬鹿だ」
「わからんで結構や! 俺は」
「それを嫁さんが本当に望んでると思ってんのかよ?」
不意に真顔でこっちを向いたその男の言葉に遮られ、俺は紡ぐ言葉を失う。
……琴尾が……?
そら、そやろ、だって……。
「おめぇが勝手に『殺さなあかん』とか思ってるだけだろ。許せねぇのはおめぇだ、殺したいと思ってるのもおめぇなんだよ。おめぇのそれはただの私利私欲だ。だから俺ぁ仇討ちが嫌ぇなんだよばーか」