【完】山崎さんちのすすむくん



「ぐっ!?」



男の短な呻き声とほぼ同時に、力強く金属同士が打ち合う鈍い音が辺りに響く。


重い体躯が地を転がる音を聞きながら、俺は目の前の鋭い目付きで刀を構えた男に目を瞠った。



「……落ち着け……っ」


「……自分は」



あいつを蹴飛ばして入れ替わったその男は確かに見覚えがある。


琴尾を見っけた時におった……。


ちゅうことはどこぞの役人、か?


……ちっ、あいつに必死で気付かんかった……まぁ、そんなことはもうどうでもええ。


その双眸を睨みつけると腕に力を籠め、刀を押し返す。



「邪魔すんな、あいつが琴尾を……俺の嫁を殺したんや!」



打刀と懐刀で迫り合えば鍔が無い分、懐刀が断然不利。刃が滑れば柄を握る俺の手はまず無事では済まない。


なのにその男は無理に押し返すこともなく、ただ俺の力を受けるだけ。


真っ直ぐに俺を射抜くその黒い瞳には強い光を宿している。


「話は、聞いた。だが嫁の仇討ちは認められちゃいねぇ」

「咎めは受ける。これは俺らの問題や、黙っとってもらおうか」

「殺しは死罪だぞ? あんな奴の為に命を捨てる気か」

「あんな奴の為やない! 琴尾の為や!」


思わず吼えた俺に男の蹴りが飛び、咄嗟に避けて間合いを取る。


大小を下げた役人らしからぬ行動に、ついと眉が寄った。


視線を動かしあの薄汚い男を見れば、役人仲間と思しき小柄な男がそれを地にねじ伏せている。


目の前に立つ男の後ろには厳つい顔がもう一人。


今を逃せばあれは引っ捕らえられる。



そうはさせん……俺が殺るんや!



ただそれだけの思いで再び足を動かしかけた時、俺に対峙する男がおもむろに刀を納めた。
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