【完】山崎さんちのすすむくん


「体調はどうです?」

「まぁ……それなりに。鬼の副長殿が人使い荒いんでたまにこうして熱が上がるくらいですよ。それより土産はないんですか?」

「ありません。物見遊山に出掛けていた訳ではないんですよ?」

「ちょっとくらい良いじゃありませんか。相変わらず真面目ですねぇ」


ぶぅ、と口を尖らせてみせる沖田くんは、故意に話を逸らそうとしてるのが丸分かりだ。


副長から聞いた話だと、月に一度は床に伏せる日が続くようになってきたらしい。


流石に幹部と、彼が組頭を勤める一番隊の隊士には隠し通せないと事実を話したとのこと。


彼の望みならと、彼を慕う一番隊の隊士達は沖田くんが組頭であり続けることを容認しているようだが──


いつまでもつか……やな。


熱が高く上がらなくとも、微熱による倦怠感は常にある筈だ。


間違いなく体力は奪われる。


じわりじわりと蔦が絡むように四肢は思い通りには動かなくなっていくだろう。


それがいつになるのかはまだわからないが、今の彼を見ていると、そう遠くない日にやってくるようにも思えた。



……あかんな、俺は。しっかせぇ。


唾と共に重いしこりをごくりと飲み込み、口に笑みを乗せる。


俺もまた、その生き方を見守ると決めたのだから。



「さぁ起き上がってばかりいては治るものも治りませんよ。早く熱を下げてさっさと働いて下さらないと困ります」


辛そうに咳込む沖田くんを無理矢理布団に押し籠めると、その人は少し眉尻を下げて、笑った。



「鬼がもう一匹」




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