【完】山崎さんちのすすむくん
『平助だけは見逃そう』
小さな道場からの付き合いの彼にかけた局長の温情は、事情を知らぬ隊士の一太刀により泡と消えた。
例えもう二度と会えなくとも生きてくれさえいれば良い。
きっとそんな思いであの場に向かった永倉くんと原田くんの痛みは、隊の誰よりも強い。
あれ以降賑やかさを失った屯所がそれをありありと物語っていた。
……その気持ちはよぅわかるけどな。
琴尾に、夕美。
実際は似て非なるものではあるが、大切なものを目の前でなくした気持ちだけは痛い程に理解出来る。
悲しみも癒えぬままに重苦しい現実が迫るこの状況は色々と辛いものがあるだろう。
その心情を思うだけでチクチクと疼く感情に蓋をして。
「……では永倉くん、何か用ですか?」
少しだけ微笑み返すと静かに立ち上がった。
「あ、そうそう、総司の奴が呼んでんだ。行ってやってくんね?」
「沖田くんが?」
もうほぼ寝たきりである彼。
一瞬、反射的に心がざわつくも、慌てた様子のない永倉くんにそれもすぐ様消える。
「有り難うございます」
今出来る精一杯で笑みを浮かべると永倉くんははたと目を丸くして、直後、気が抜けたように小さく笑った。