マネー・ドール
 俺は、横で、たとたどしく、弱々しく、でも確実に話す、この女が怖くなった。
嘘ではない。でも、真実でもない。真純は、曖昧な部分を、物理的には調べられない、曖昧な部分を、真実に作り変えていく。明らかな真実に、曖昧な色のペンキを先にぶちまけて、微妙に違う色の真実に塗り上げていく。金のことだって、俺は一言も言わなかった。でも、真純はわかってたんだ……松永さんが、何を言いに来たのか、何を見に来たのか……そして、試されてることを……
「真純ちゃん、本当は、内緒で、君のことを調べさせてもらったんだ」
「え? 私のことを……?」
「気を悪くしないで欲しい。悪かったね」
「いえ……当然ですよね……」
「もし、今日君が嘘をついたなら、すぐにここを出て、慶太くんとの交際はやめてもらうつもりだったんだ」
「そ、そうだったんですか……」
白々しい。わかってただろ、そんなこと。
「でも、君は正直で、言わなくてもいいことまで話してくれた。君は信頼できる女性だ」
ちょっと待て……この展開は……
「慶太くん、真純ちゃんを、大事にしなさい。彼女のようないい子は、そうはいないよ」
嘘だろ……まさか、こんなことに……
「真純ちゃん、若い女性が、セキュリティもないような所に一人で住むのは危険すぎる。君が嫌じゃなければ、ここにいなさい」
「本当ですか? 私、ここで佐倉くんと暮らしてもいいんですか?」
「慶太くんのこと、よろしく頼むよ」
「はい……松永さん、ありがとうございます」
「それから、お金のことは、もういいから。これから、気をつけて」
「はい、反省しています」
「生活費は、慶太くんに仕送りするから、それを使いなさい。スナックとか、そんなお店で働くのは感心しないよ。もうすぐ卒業なんだし、しっかり勉強しなさい。わかったね?」
「はい、アルバイトは辞めます。その代わり、お家のこと、全部します」
「まあ、そんなこといいんだよ。困ったことがあれば、すぐ僕に相談しなさい。いいね?」
「はい。私……なんだかお父様ができたみたいで、とても嬉しいです」
「ははは、お父様か。そうだね、父親だと思って、なんでも言いなさい」
松永さんは、ケーキを食べて、美味い美味いと言った。その後、二人は本当の親子みたいに仲良くなって、松永さんは、帰って行った。
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