情熱のメロディ
 2階の廊下の奥へと進んでいき、音楽室の扉を開ける。重たい扉をゆっくりと押すと、中からピアノの音が聴こえて、アリアはそっと中を覗きこんだ。

 「――っ」

 アリアはハッと息を呑んだ。演奏していたのがカイの母親であり、フラメ王国の王妃であるフローラだったから。

 茶色の髪が肩で揺れ、柔らかい表情でピアノに向かっている姿はとても美しい。しなやかな手と指の動きから紡がれる旋律は……“夢”だ。

 ちょうどアリアとカイがうまく演奏できない箇所に差し掛かるところで、美しい旋律が苦い不調和を含み始める。

 苦しい――アリアはギュッと胸に手を当てて、締め付けられるような音を聴いていた。フローラの表情も切なく、息苦しそうに呼吸を乱し、鍵盤を強く押していく。まるで……届かない想いをぶつけるかのような演奏だ。

 カイと……カイの演奏と、同じ。

 「……っ、苦しい」

 喉の奥から搾り出される言葉――ピタリと演奏が止まり、アリアは大きく息を吸い込んだ。空気がとても冷たく感じるほど、アリアの呼吸は止まっていた。

 「あ、ごめんなさい」

 フローラも少し乱れた息を整えるように呼吸をして、立ち上がる。

 「い、いえ!演奏の、お邪魔をしてしまって……すみませんでした」

 アリアが慌てて頭を下げると、フローラはふふっと笑ってピアノの片づけを始めた。

 「練習の邪魔なのは、私の方でしょう?つい時間を忘れてしまって……カイもまだ今日はここへ来ていないの」
 「はい。お仕事がまだ終わらないみたいで……先ほど、イェニーさんが伝言を」
 「そう……」
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