情熱のメロディ
 「……アリ、ア」

 カイが荒い呼吸を繰り返しながらも掠れた声でアリアを呼ぶ。その音にハッとしたのは、アリアだけではなく、会場にいたすべての人々だった。

 小さくパラパラと始まった拍手が広がっていき、大歓声が起こる。

 カイとアリアはしばらく見つめあったまま大きく息をしながらお互いの気持ちを確かめた。カイは瞳を揺らがせて、アリアは彼にフッと笑いかけた。

 それだけで……十分だ。

 アリアがゆっくりと観客席へ顔を向けると、皆一様に優しい眼差しでアリアたちを見つめてくれていた。中には泣いている人も見える。

 伝わったのだ――アリアの気持ちは、すべての人々へ、そしてカイにも届いたのだ。

 アリアは清々しい気持ちでお辞儀をした。

 「カイ様……これが、貴方の知らない私の気持ちです。私は、カイ様とこの舞台に立てたこと、音楽家として光栄に思います」

 今までで一番の舞台だった。後悔はしていない。たとえ、カイがこの気持ちに、夢に……終止符を打つのだとしても。

 アリアはカイに向かって頭を下げ、ゆっくりと舞台袖へ歩き始めた。

 アリアにできることは、すべてやった。カイの答えは……彼の揺れる瞳の中にあった。カイはアリアのために、アリアを諦める覚悟をしていたのだと思う。

 だから……これ以上は、わがままは言わない。

 控え室への道、アリアの履いたヒールがコツリ、コツリと静かに音を立てる。それと一緒に零れてくる涙を、アリアは拭わないまま……

 控え室の扉を閉め、カイが作ってくれたドレスを脱いだ。

 アリアはフローラのようなシンデレラにはなれない。魔法の時間は――アリアの夢は、ここで終わりだ。

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