情熱のメロディ
 「わがままなのは、わかっている。本当は、まだ迷っているんだ……君を、閉じ込めてしまいたい。君を、自由の空へ羽ばたかせてあげたい。こんな正反対の気持ちがずっと頭の中を巡っていて……どうしようもないくらい、情けないでしょう?」

 自嘲するカイは、やはり泣きそうな顔をしていて、アリアも胸が締め付けられた。けれど、同時に怒りにも似た感情がアリアの中で湧き上がって、アリアは自分の頬に添えられたカイの手をギュッと握った。

 「そんなの……そんなのは、勝手です!」

 羽ばたかせたい、なんて……アリアはそんなこと、望んでいない。アリアはただ、自分を表現できるだけで良いのだ。本能のままに寄り添える音があればいい。

 コンクールでの成績も、音楽祭での名誉も、何もかもただ結果としてそこにあるだけなのだ。アリアにとってはそこでどんな演奏をしたかの方が重要で、有名になりたいと思ったことなんて一度もない。

 「カイ様が私を放とうとするのなら、私は離れるしかないじゃないですか!カイ様が私を必要としてくれないのなら、私は貴方の傍にいることができないんです。カイ様が応えてくれないのなら……私はもう、二度と……っ、貴方のためにバイオリンを弾けない……!」

 今日で、最初で最後だと思って弾いた。それで満足していた。
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